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書評: 「鈴木敏文 孤高」の感想・レビュー

最近、戦後の小売・流通会社の歴史本を読んでいます。堤セゾン、中内ダイエーときて、こちらの伊藤・鈴木の7&iまで来ました。

前者の2社と異なる点として、鈴木敏文氏は創業者ではなくあとを継いだサラリーマン社長だということ。創業者、創業家とうまく調整しながら事業を進めるのはけっこうなストレスなはずで、セブンイレブンをここまで成長させた腕っぷしのある人が、独立もせずにこの事業をやり続けたのは割と奇跡的だなあという感想です。なぜなら、能力のある人も自分が完全なトップになって力を試したいというのが自然な欲求だからです。そういう意味で鈴木氏はこのコンビニ事業にかなり思い入れがあっただろうなあと思います。セブンイレブンの成功は、そんな鈴木氏が思い入れを持ち、顧客が求めるものが何かを考え抜き、それらを強烈に推進してきたことで造られたのでしょう。

コンビニという一大産業を創り出した鈴木氏の半生を振り返るということでおもしろい本だったのですが、日経ビジネスの取材の焼き直しということでちょっと内容としては物足りないかなという感じでした。なのでメモも少なめ。しかし、メモを読み返すと鈴木氏の話はやはり、顧客ニーズ / 分析 / 実行に集約されるので、こういった当たり前すぎるところが伝記ものにしたときの物足りなさになっているのかもしれません。

読書メモ

小さな店の強み

小さな店の強みは個別最適化と、ある程度コストを度外視した品質を出せることである。これらがビジネスとして強みになる領域において、詳細を無視した合理化をすすめるのは危険である。

セブンイレブンの合理的なシステムを自賛しはするが、伊藤がこの店に魅かれるのは実はシステムの完成度の見事さではなく、フランチャイズ方式に集まる「自営業者の心意気」なのである。「ご夫婦が一生懸命に助け合って店を磨いているのを見ると、気持ちいいね」。

「3代くらいずつかけなきゃ味は出せないそうだけど、ああいう小さな店って実にいいねえ」

居住まいを正す

7&iは今でも身だしなみに非常に厳しいとのこと。

「店員の長髪はまかりならぬ。お客様商売で、気持ち悪いとは思わないのか」

どこを参考にするのかが重要

優れた方法論や事例に学ぶは良いが、そのまま横展開できるということは稀である。参考にしたものと、自分たちが置かれている状況をしっかり比較する。そして、どこか同じで、どこが違っているのかをよく考えることが重要である。

もちろん、具体的な品揃えや出店、物流などについては、日本とアメリカでは市場特性があまりにも違い、参考にはならなかった。しかし、実務レベルでは、アメリカから学んだノウハウは欠かせなかった」  その最たるものが、FCの本部と加盟店オーナーで利益を分配する方法、つまりロイヤルティーに関する考え方だ。当時、外食チェーンなどのFCで一般的だったロイヤルティーは、加盟店の売上高に対する歩合制だった。だが、セブンイレブンは当初から、売上高に対する歩合ではなく、本部と加盟店で粗利を分配する方式を採用

在庫責任、利害を一致させる

構造としてフランチャイジーや、店舗、もっというとメンバー単位での利害関係が一致していることが重要である。

在庫責任を店舗が持てば、各店舗は顧客の嗜好に合わせてきめ細かく商品を発注する。小型店一つの発注量は少なくても、それらを大量に束ねた「消費者の総意」を背景に、鈴木は名だたるメーカーを動かす大きな力を手にしていった。