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書評: 「鈴木敏文 のCX(顧客体験)入門」の感想・レビュー

トップコンビニチェーンであるセブンイレブンを作り上げた、鈴木敏文さんの「顧客体験」についての考えをまとめた本。

当たり前になっているコンビニでのおにぎり販売やATM設置もこの方の発案である。今では想像もつかないが、当時はこれらの施策にも社内では猛反対があったというが、結局この2つの施策はコンビニあり方そのものを変えるほどの施策になっている。

そんな鈴木氏がとにかく言っているのは「お客様の立場になって考える」という言葉である。顧客目線、お客様視点という言葉はよく使われるが微妙にニュアンスが違うと感じた。お客様視点はお客様の横に立って物事をみること、「お客様の立場になって考える」はお客様に憑依して考えることだ。

この本にはキャリアを通して「お客様の立場になって考える」を実践してきた鈴木氏の知恵がつまっている。

読書メモ

コト消費とは

「単にモノを売るのではなく、モノをとおして、お客様に満足していただけるようなコトを提供する」 コトとは、モノ(商品)がお客様にとって、そのとき、その場で、どのような意味をもつかという関係性のことであると、わたしは考えます。

セブンプレミアム ゴールドを、週末、一週間頑張った自分へのごほうびに購入するという「ごほうび消費」をされる方がいるそうです。これなどは、まさに、コト消費といえます。詳しくは本文で述べますが、女性のお客様の中には、このセブンプレミアム ゴールドを、週末、一週間頑張った自分へのごほうびに購入するという「ごほうび消費」をされる方がいるそうです。これなどは、まさに、コト消費といえます。

今までずっと勘違いしていたのだが、旅行やアクティビティなどのコトを指すのではない。単純にスペックとしての「モノ」ではなく、それをどういう文脈で購入するかということだ。

選択の納得性を求める

なぜ、現代の消費者は「メリハリ消費」や「ごほうび消費」をするようになったのか。それは、自分の選択を納得できる理由、つまり、選択の納得性を求めるからだとわたしは思います。

大根の半切りが売れる理由などもそうだが、多少割高でも損を回避する、自然に良いことをするなど、消費に対する納得感を大切にする。(投資マンションなどの)無形物などはこの傾向がかなり強まると予想される。

現金下取りセール

単に二割引きでは特に洋服を買おうとは思わない。でも、不要の古い服を下取りに出して、お金に換え、新しい洋服を買うのであれば、自分の選択を納得できるし、消費を正当化できる。

コト消費、納得性のかなり面白い事例。やっていることは同じなのに、新しい服を買うという罪悪感の軽減をうまく利用している。

合理的満足と感情的満足

「合理的に満足した顧客」は「満足していない顧客」とあまり変わらない行動を取るのに対し、「感情的に満足した顧客」は企業の売り上げに貢献する行動を取る、というのです。

コト消費、納得性を突き詰めていった先にあるので感情的満足である。

比較検討した結果これが最良スペック、合理的価格であるということではなく、スペックや価格の合理性より得られる体験に感情的に納得していることである。

バルミューダのトースターなどが良い例だと思う。

ブランドデザインとフィロソフィ

そのため、いかに伝え方のテクニックが巧みでも、基本的な考え方があいまいなままでは、本質的なものは伝わらない。だから、「根底に流れるフィロソフィ」が重要になると。

この感情的満足、納得感、コト消費を考えていく上でそれらの根底にあるフィロソフィが大事になってくる。また、デザインとしてそれらを表現し、統一感をもたせていくことも大切になっていくる。

誰かのためにではなくて、誰かの立場で

xxxのためにという言葉は、自分たちの立場でxxxのことを考えている。xxxの立場で考えるということを常に意識すれば自ずと顧客が求める商品や体験は考えることができる。

売れているけど問題

マーチャンダイジングにおいては、売れない商品があることも問題ですが、同時にレベル以下の商品が売れていることも大きな問題があります。

自分たちが満足していない商品が売れていくことは、売れれば売れるほど信用が失われていくことにつながる

異業種間競争

たとえば、自動車業界も、自動車というモノづくりを競争する時代から、CASE(コネクテッド・自動化・シェアリング・電動化)という四つのキーワードをめぐる体験価値を競争する時代に入ってくると、IT業界をはじめ、多様な業界から参入してくるので、同業他社の動向を見ているだけでは、取り残されていきます

自分たちの立場で考えれば、顧客の立場で考え、ニーズを見つけて、どんどんと異業種間競争に参入していくべきである。

おいしいものは飽きられる

おいしければおいしいほど、それと同じくらい飽きる」というのがあります。  だから、売り手は「お客様が飽きるほどおいしい商品」を提供し続けるという「不合理」を実践できなければ、顧客の支持は得られないと。

期待値が上がってしまうので、それに対して商品を進化させていかないと飽きられる。最近のiPhoneにこの現象が見られる。iPhoneは他に有力な代替が今のところないのでなんとかなっているが協力なライバルが出てきたときには捨てられる可能性がある。

新製品として発売されたその日、普通なら「販売促進に力を入れるよう」と檄を飛ばすところですが、わたしは開発担当者にこう指示しました。 「すぐにリニューアルに着手するように」

セブンイレブンの金の食パンは発売のその日にリニューアルに着手していた。

経営の動体視力

ニーズや顧客が止まっているものと考えて、それに対して打ち手を考えていくといずれ的外れになる。なぜならばニーズや顧客は常に動いているからである。

二匹目の土壌はすくわない

モノマネの大きな問題点は、絶対に本物以上にはなれないし、トップにも、ナンバーワンにもなれないことです。店舗数が急増し、身近な存在になっても、マクドナルドほどの手軽さを提供できなかったのは、モノマネ路線だったからです。

「『食べるラー油』が流行ると、その次に何がヒットするかを考えるとき、『生七味』とか似たような商品の枠の中で考えてしまいます。しかし、その中には大ヒットするものは、もうないんです」

セブンイレブンでは他店を見に行くことを禁止していた。繰り返し出てくるが「顧客の立場」にたってそこから新しいものを作っていくことが大事。大ヒットを狙っていくならそこにしかない。そういう意味だとマネのための調査というのは意味がないのかもしれない。

パートタイマーに発注をまかせる

セブンイレブンでは高校生のバイトにも発注業務を任せている。これをやることで仕事が自分ごとかされ、自分の発注の結果がどうなるか気になるようなり、休日でもそれを確かめるようになったという。

よっぽど怠惰な人間でない限り、責任をもたせてもらえるというのはやりがいを生む。

未来の可能性は過去の論理で否定できない、しかし過去の成功にとらわれてはならない

過去成功しなかったといって、これからやることが成功しないということはない。逆に過去成功したからといってこれからやることが成功すぎるとは限らない。

どっちにしても過去にとらわれてしまうと成功しないということだ。一方で過去に学ぶことを非常に大事であり、常になにが差分なのかを考えることが重要である。

ものごとに対する疑問を発する、情報収集

アイディアを創造するには、常に物事に疑問を発しておく必要がある。これはなぜできないんだろう、こんなものができるはずである、こんなものがあったらいいのにという問いを常に持っておけば情報はおのずとその疑問の針にかかってくる。一本釣りをするのではなく、多くの疑問の針を多数もっておくことが大切である。

ミクロとマクロを結びつける

アイスが売れ行き不振のときに、なぜか高級価格帯のアイスだけは売れている。他方で高級なケーキ類の売上は好調である。マクロで見ると消費者は高級なデザートを求めていた。アイスが不振だからといって、ミクロでの変化に目をつぶってはならない。

生活者としての自分を外から見ているクリエイターとしての自分

仕事を一歩離れれば自分も1人の消費者、お客様である、そのときに意識を自分から話して、それを外から観察している視点を持つこと。

生活者としての自分は何を欲しがっているのか。

顧客の購買意欲が掻き立てられる売場

カルディの店内は、食材の売り場であると同時に、店頭で試飲用に手渡されるコーヒーを片手に物珍しい輸入食品を探索する場でもあり、世界の食材めぐりの擬似的な旅空間でもある。  このように、一つの空間で複数の意味が重なり合うことを集合論の概念では「セミラティス構造」と呼びます。  たとえば、古い町並みの商家の軒下は、道路の公的な空間と店の私的な空間のどちらにも属す。家の縁側は内でもあると同時に外でもある。商家の軒下にしろ、家の縁側にしろ、人の歴史の中で自然に生まれた空間は総じてセミラティス構造になっています。  軒下も縁側も、どちらも人間にとって心が安らぐように、セミラティスの空間の大きな特徴は、居心地がいいことです。

フェイスアップやキュレーションをしっかり行うことて、複数の意味が重なりあって単一の意味をもつセミラティスな空間を作ることができる。そうして出来上がった空間は居心地がよく購買意欲が掻き立てられる。