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「決断の本質」著: マイケル・A・ロベルト の感想・レビュー

読んだきっかけ

最近、会社全体の意思決定の方法についてどういうプロセスが最適なのかということを考え始めました。事業数やプロダクト数が増え、組織のサイズが大きくなるにつれ、適切に情報を集めて、多くのメンバーが納得感のある形で意思決定をしていくことの必要性を感じたからです。

そんなときに「意思決定 プロセス 本」というワード検索してヒットしたのがこの本でした。かなり長く読まれていれる書籍であり、読むのに体力がいりそうな本にも関わらず評価を高かったので読んでみることにしました。

感想・レビュー

必要な情報を集め、組織内で創造的な議論を起こし、行動につながるコンセンサスをとりつける方法が抽象化・体系化され書かれており、非常に参考になりました。間に差し込まれるエピソードもちょっと古い話ながら具体的なイメージを持つ助けとなりました。

ちょっと教科書チックで読むのにけっこう体力がいりますが、手元に置いておいて何度も見返しながら血肉にしていく類の本だと思います。

読書メモ

決断の本質

1. リーダーシップへの挑戦

助言はあまねく、命令は一つ

建設的な対立、多様性のある意見が重要なのは言うまでもない それだけではダメでリーダーは組織内でコンセンサスを得る必要がある

コンセンサスとは組織構成員の承認という意味ではない

人々がその決定に同意して協力するということがコンセンサスの意味である。決定自体には満足していなくて良い。

コンセンサスの2要素

  • 決定された行動方針に対する高度のコミットメント
  • 理論的根拠に対する強固な共通認識

意思決定の神話

意思決定は思っているようなシンプルなものではなくいろいろ要素が絡まり合い、タイミングも不確かである。建設的な対立+広範なコンセンサスが意思決定の成功だが実際には難しい。

建設的対立を阻む要因

  • リーダーの姿勢、独裁的または逆に優柔不断
  • 偏った情報処理、いわゆるバイアス
  • 認知の硬直性、古いメンタルモデルから抜けれないなど、時代の変化についていけない
  • 身内意識、職能ごとのグループ分、エンジニア、営業など
  • 組織の防衛的姿勢、悪いニュースを言わない、メンツを保つなど

建設的対立を阻む根本的な原因

問題が生じたときに、何よりもまず正しい解決策の発見に気を取られ、一歩下がって意思決定のための正しいプロセスを定めようとしないことが原因であるどのような方法で意思決定するのかこの問いが重要である。 ※もちろん決定の内容自体が大切なときもある

2. 決定する方法を決定する

意思決定プロセスの4C

  • Composition(メンバー構成)
  • Context(背景)
  • Communication(コミュニケーション)
  • Control(コントロール)

Composition

様々レベル、領域の人から情報を得て意思決定をするべきである。しかし、その上司を飛び越えて話し場合は、堂々と行い隠し立てしてはならない。

下記4要素がある。

  • 専門知識の有無
    • その決定をするのに必要なメンバーを召集する
    • そのメンバーはその事項に対して新鮮な視点で見れる必要がある
    • 必要があれば下位のメンバーとも直接話す
  • 決定を実行する際の重要人物
    • 実行する場合のリアリティのあるコストがわかる
    • コンセサスを得たあとの実行がスムーズになる
  • 信頼できる腹心として役割
    • 常に一歩引いた目線で客観的なアドバイスをくれる相手
    • 会議体に参加させる必要
  • 構成メンバーの多様性による効果
    • 多様性があればいいというわけではない
    • その時々のベストな多様具合、同質具合を考えることが重要

CONTEXT

人は文脈によって行動に多大な影響を受ける。構造的背景はそうそう変えられないが心理的背景をかなり流動的である。

  • 構造的背景
    • 報奨制度、どういった人が評価されるか、など
  • 心理的背景
    • 時間的制約
    • 心理的安全性、リーダーが弱さを許容する
    • グループ内で頻出する言葉、特定の思想に偏りを

COMMUNICATION

対話の仕方の定義。議論の進め方のようなもの。 実際にはコンセサス手法を用いることがほとんどであるが、各方法のメリット・デメリットを理解しておく必要がある。

  • コンセサス手法
  • 六色ハット発想法
  • 弁証法的討議 / 悪魔の代弁者

CONTROL

自分の立場を明確にする。心の中で準備して臨む。

  • いつ・どんな方法で自分の意見を表明するのか
  • 枠組みをどこまで制約する
    • 戦うという前提をしくかしかないか
    • 戦わないという案も許されるか
  • どこまで議論に介入するか
    • 放任型
      • すべての参加者が適切な情報と専門知識を持っているときは介入しない
    • 介入型
      • よくあるやり方?議論の方向性やメンバーの理解を確認しながらすすめる
  • 会議の中でどんな役割を演じるか
    • 未来派
    • 落ち着かせ役
    • 行動の重視
  • どこを議論の終着点とするか
    • 全員のコンセサスを得ることを努力する
    • まとまらない場合は裁定役をとる

3. 硬い壁と柔らかい壁

率直な対話を妨げる要因は2つに分類できる。硬い壁(構造的のもの)と柔らかい壁(その組織に分化に起因するもの)

  • 硬い壁
    • 複雑な組織
    • 不明瞭な役割
    • 情報のフィルター装置
      • ナンバー2問題
    • 意思決定機関の構成
      • 期間と異論の時間的性質を理解する、チームの初期と馴合期
  • 柔らかい壁
    • 身分の相違
      • 医者と看護師、上司と部下、上官と部下
    • 用語体系
      • 意味を歪ませる組織内用語、NASAでは異常のことを(既知 = 家庭内、未知 = 家庭外)と呼んでいて、そのことがコミュニケーションの妨げになった
    • 問題に対する枠組みの設定
      • NASAでのシャトル計画、これは実験的な試みなのか、シャトル(日常的なものになる)とう前提なのか、後者の前提を設定してしまったためにリスクに対する態度が著しく甘くなった(スピード重視)
    • 当然視される前提
      • 結論は会議のあとで出す、2階級とばして話さないなど

求めなければ得られない

リーダーは反対意見を積極的に取りに行かなくてはならない、反対意見が上がってくるのを待ってはいけない

4. アイディアの衝突を促す

アイディアの衝突を促す4つの方法

  • ロールプレイ
    • もしも、株主が我々を放り出して新しいCEOをつれてきたら彼は何をやると思う?(インテルの例)
    • 競合会社の営業マンだったらどのような戦略をとるか
  • シナリオ分析
    • あるアイディアが完全にしっぱいにおわった場合、どういうシナリオが考えられるかを何通りか出し、その上で対策を講じた上で元の方法でいくのか、別の方法を考えるのかを決める
    • プレモーテムと呼ぶ
    • ポストモーテムも行いシナリオ設定のプロセスも見直す
  • 概念モデル
    • 特定のモデルの枠組みを決めた上で分析をしてもらう
    • 枠組みをある種おしつけることで思考の限定を解除する
  • ポイント・カウンターポイント
    • 対立するチームにわざと分ける
    • 悪魔の代弁者的な方法
    • ゲーム制作会社の例、良いゲームをつくることと予算内に収めることのカウンターさせる

リーダーがアイディアの衝突を妨げる際に陥りやすい罠

  • 反対する人を飼いならしてしまう
  • ハブ・アンド・スポーク型で対話してしまう
  • 質問と反対の時間をなくしてしまう
  • 閉じこもりと両極化を促してしまう(時間のかけすぎ)
  • 見せかけの精度を追求してしまう(精緻なシミュレーションのつくりすぎ)

卓越は習慣の中に宿る これらの方法を意識して組織文化の中に溶け込ませていくことが重要

5. 対立を建設的に解決する

認知的対立は多いが、感情的対立が少ないのが良い状態である リーダーは議論の前・最中・後で以下のことを意識する必要がある

    • 基本ルールを定める
      • 人の話は最後まで聞いて遮らない、不愉快な態度は取らないなど
    • 役割を決める
      • 対立する立場の人を入れ替える
      • 悪魔の代弁者など
      • 支持しない意見を弁護させるなど
    • 認知スタイルの違いを尊重させる
      • データを重視するのか、経験を重視するのか
      • 人を注視に考えるのか、システムを中心に考えるのか
      • これらの差がわかっていればそういう側面から見ていると考えることができる
  • 最中
    • 枠組みを再設定する
      • ゼロサムゲームに陥らないようにする
      • 質問方法を工夫する
        • なぜあなたがそう考えるのか教えてほしい
        • なぜこれ以外の選択肢ではだめなんですか?
        • もしこの前提が間違っているとわければどうなりますか
        • もしあなたが私の立場であればどうしますか
        • これが最善の解決策だと考えるには理由があるのでしょう、それを聞かせてもらえませんか
    • 論点を再説明させる
    • 前提を再検討させる
      • 議論が過熱したときは基本的な事実と前提を再度みなしてみる
    • 反省を促す
    • 対立を修復する
    • 成功事例を記憶に残す

6. 優柔不断の力学

詮索好きな決断不能に陥らないようにする

  • 「ノー」の文化
    • 誰か一人の意見でアイディアにノーを突きつけられる雰囲気・文化
  • 「イエス」の文化
    • うわべだけのコンセンサスによって結局は実行されない
    • 何度も決断が覆される
  • 「おそらく」の文化
    • 分析しすぎて進まない
    • 100%を求める

こういった事態に陥っており決断力が鈍ると以下の様な方法でその解決を図るパターンがみられる

  • 類似性で判断する
    • ミュンヘンアナロジー
  • 経験則で判断する
    • ローン残高の経験則
    • ムーアの法則
  • 他社の成功を模倣する

これらの方法は意思決定を早める助けとなるが根本的な文化の解決にはならない。これらの方法はもちろん強力なメリットがあるし役に立つがすべてのケースでうまくいくわけではない。

7. 公正なプロセスを追求する

人は思っている以上にプロセスの公正さを重視する。裁判において、勝訴した側が常に満足度が高いが、敗訴した側もプロセスが公正だと感じるときは、勝訴側に近い満足度を得ることがわかっている。

人がプロセスを公正だと感じる条件は以下である

  • 自分の意見を述べ、また他のチームメンバーの意見に同意しない理由を話し合う機会が十分に与えらている場合
  • 意思決定プロセスが透明だったと感じる場合
  • リーダーが意思決定する前に自分の意見を注意深く聞き、それを慎重かつ真剣に検討してくれたと思う場合
  • リーダーの最終決定に実際に影響を与える機会があったと感じる場合
  • 最終決定の理論的根拠が明快に理解できる場合

意見の尊重を示す方法

  • プロセスのロードマップを準備する
  • 公正な物事の見方を強調する
  • 積極的に意見を聞く
  • 意思決定の根拠を説明する
  • 意見をどのように反映したか説明する
  • 謝意を表明する

「人は自分の意見を聞いてもらいたいのだ。そして聞いてやりさえすれば、次にほしがるのは、本当は結論なのだ。」

8, 9は省略