著者の吉井さんは、この前優勝したWBCの投手コーチということで、ウェブメディアに記事が出ていたのを読んで興味を持ちました。コーチングという概念自体はずっと知っていて興味もありましたが、how to本みたいなのは押し付けがましくあまり読む気がしなかったのです。
今回はスポーツ選手の書いた本はけっこう好きなので読んでみることにしました。コーチングの基本について、野球という題材を使って説明されているのですっと頭に入ってきます。
特に記憶に残ったPM理論という考え方です。この理論は、スキル面、精神面という2つの面での指導を選手のステージによって使い分けようという考えた方です。シンプルですが、非常に実践しやすい優れたフレームワークだと思いました。
コーチングは理論としてはわかるのですが、実践するには相当な精神面の成熟が求められると思います。この本はエントリーとして良い本だと感じました。
読書メモ
ミスを指摘しない
選手はミスをわかっているし、それをこれ見よがしに指摘しても逆効果なことが多い。自尊心が損なわれてやる気がなくなるだけである。これはけっこうやってしまいがちなので注意したい。
結果の感想を聞くことから始める。そこでこちらが思っているミスの話が出たときにそれとなく指摘する。
十分にコミュケーションをとれないならば指導しないほうがよい
まずは観察、話し合いというのがコーチングの基本ということである。それには十分な量のコミュニケーションが必要。
逆に言えば十分にコミュニケーションがとれないならば指導しないほうが良いと思われる。背景や普段の様子がわからない中で指導を行うと地雷を踏む可能性が非常に高い。
適切な言葉の選び方
上から「やれ」とは言わない。選手に「おまえはどうしたい?」と聞いて、選手が自分の考えを口にしたら「ほな、やりなはれ」という。こちらにプランがなく、選手を信頼している場合は、物事の判断を選手に一任する。コーチとしては「好きにやりなはれ」としか言いようがない。
主体性の重んじる言葉を使う。サントリーの「やってみなはれ」などが良い例。やらなくてもいいけど、やってもいい、ニュアンスの言葉を選ぶ。
ただし、指揮命令のときとはわけることが必要、ビジネスの現場では指揮命令とわけないと逆効果になりそう。
わかるとできる
当然ながら「わかる」と「できる」は違う。できないうちにわかるレベルの情報をいれてしまうと選手は逆に混乱する。
ビジネスに置き換えると、適切なときに適切な理論を教えることが重要。新入社員にプロジェクトマネージメントの話は早すぎ、まずは正しい話し方、とかを教えていくべき。
叱る時
コーチになってすぐのとき、野村克也さんに質問しに行った。 「野村監督、選手を叱るときはどんなケースがありますか? 僕、叱り方がわからないんです」
野村さんは、いつもの調子でボソッとつぶやいた。 「そんなん簡単や。手ぇ抜いたときや。でもな、選手のミスは絶対に叱っちゃあかん。本気を出さんとき、手ぇ抜いたとき、そんときだけ怒れ」
野村監督にそういうイメージないけど割と人格者なのかもしれない。
役割の定義と共通認識
しかし、メジャーリーグでは、四番バッターにバントをすることは求められない。サインもなく自らバントしたとしたら、四番バッターは与えられた役割を放棄したとみなされ、逆に怒られる。 四番バッターの役割は長打をもたらすことだ。犠牲バントをする役割など求められていない。だからもし、仮に三振してランナーが進塁できなくても、監督やコーチはもちろん、ファンからも批判されるようなことはない。
日本のメンバーシップ型だと、役割の定義がそもそも甘い気がする。自分の役割以外で周りを助けることはときには美談だが、平時には自分の役割に徹することが大切である。
そういう意味でもその人の役割がなんなのかを組織の中ではっきりさせておくことが大事である。野球の4番とかはわかりやすいが、会社組織の中だと難しいので意識的にやる。
育成と課題設定
言うまでもなく、育成には課題設定が非常に大事である。無理なくクリアできる課題を設定し、徐々に難易度も上げていく。
課題はすべて自分でコントロールできる要素で設定されていることが望ましい。
理想の状態、慎重さと大胆さ
僕が考える最高の状態は、慎重で冷静、しかし自分の決めた戦術を実行するときの大胆さと勇気を兼ね備えた選手だ。
臆病と蛮勇の間という感じ。ビジネスでもこれは大事。考えて考えて決めたら自信を持って大胆にやる。
最悪のケースから考える
まず、どこにどのボールを投げたらホームランを打たれ、チームが負けてしまうか。最悪のコースと球種を考え、そこだけには投げないよう伝える。そのうえで、最悪のケースを除外した場合、ほかにどこにどのような球を投げるのが適切かという順序で投げる球を決めてほしいと伝える。それが決まったら、持ち前の大胆さで思い切り勝負してほしいと強調する。
とても参考になる考え方だと思った。最悪のケースだけを避けておけば、だいたいリカバリーが効くし、そう思うと実行するときの大胆さも出していくことができる。
PM理論
パフォーマンス、メンテナンスの略。右下からはじまり、右上、左上、左下に至る。指導とは技術的な指導、育成とは精神面の指導、右下が初心者で左下が一流選手のイメージ
一流のコーチは教えないという本を読んでるのだけど、このマトリックスおもしろかった。
— 永嶋 章弘@ITANDI執行役員 (@eiei19) 2023年5月23日
こういうったフレームワークがあると考えが整理されて良いですね。 pic.twitter.com/lyzwNt4x7T
観察、質問、代行
コーチングで大切なのは、観察、質問、代行である。
人を観察してどういった特徴、どういった考えなのかをよく理解する。振り返るトピックに関して質問する、このときこちらから答えはいわない。
そして最後の代行であるが、これはその人の立場になって考えることである。これはCXの話でも出てきたが、自分から見た自分の意見ではなく、人の立場から見た外部の意見という感覚を持つ。
わかる、できるの判断基準
完全に理解して、それが実践できて入れてば人にわかりやすく説明できるはずである。逆にそれができなければわかっているとも、できているとも言えない
ID野球の真意
「データ通りに投げろと言ってるわけやない。ピンチになって頭の中がパニックになったときに『俺はこのピンチの対処法を知っとる。だから大丈夫や』という材料に使ってくれたらええんや」
ID野球というのは理詰でやっていくつまらない野球というイメージだったがこれが真意らしい。
眠くなる方法
身体の深部の温度と、皮膚表面の温度の差が一定以上になったときに、人間は眠気に襲われるらしい。
その対策として、ぬるめの風呂に二十分ほど入って表面温度を上げれば眠くなるという研究結果が出たそうだ。寝る前にしっかり水分を取って風呂に浸かり、部屋を暗くして冷ましながら寝るとすんなり眠れると聞いた。
重要なのは身体の表面温度を上げること。