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書評: 「 良い戦略、悪い戦略」の感想・レビュー

久しぶりに名著に出会いました。

戦略とはリソースの集中である、そしてそれは次の3要素によって成り立つというシンプルな話。

  • 診断
  • 基本方針
  • 行動

そしてこの中の「基本方針」としてどんなものを採用すれば効果的なのかが解説されています。特に診断、基本方針、行動というこのフレームワークは非常に強力で、自分たちの戦略立案にもライバルの戦略考察にも、明日から使えます。

是非一読をオススメしたいです。

読書メモ

戦略とは

戦略策定の肝は、つねに同じである。直面する状況の中から死活的に重要な要素を見つける。そして、企業であればそこに経営資源、すなわちヒト、モノ、カネそして行動を集中させる方法を考えることである。

戦略とは、組織の存亡に関わるような重大な課題や困難に対して立てられるものであり、それらと無関係に立てられた目標とは異なる。戦略とは、そうした重大な課題に取り組むための分析や構想や行動指針の集合体と考えればよい。

「実行面に問題がある」と嘆く経営者は、たいていは戦略と目標設定を混同している。戦略を立てるつもりで業績目標を立てているケースは珍しくない。シェアや利益の拡大だの、大学合格率の上昇だの、美術館の来館者の増加だのといった目標だけを立てたら、願望と行動の間にギャップができるのは当然と言えよう。戦略とは、組織が前に進むにはどうしたらよいかを示すものである。戦略を立てるとは、組織にとって良いこと、好ましいことをどうやって実現するかを考えることである。もちろん、リーダーが目標を立て、それをどう実現するかは部下に任せる、という方法はあり得る。だがこれは、戦略ではない。そうやって組織運営をしている経営者は、戦略は立てずに単に目標設定をしているのである。

戦略の定義が、冒頭に多めに書かれているが、これがこの本のすべてであると言える。

現実にあった良い戦略、機会の窓を待つ

ジョブズは私の意見に反対もしなければ、賛成もしなかった。彼はにやりと笑って、こう言ったものだ──「何か次のでかいことを待っているんだ」  ジョブズは単純な成長やシェアの拡大は口にしなかったし、パソコンでトップの座を奪いとる秘策があるなどとも言わなかった。

ジョブズがアップルを立て直したときには、革新的なプロダクト構想などはなく、商品ラインナップのスリム化、人員削減などを徹底して行い、パソコンメーカーとしてのニッチを突き通した。

それがその時点でのアップルの良い戦略であったからだ。そして、機会の窓を待ち、iPhoneを生み出した

戦略を考えるときは常に競争を意識する

他の組織もとれる戦略というのは、良い戦略ではない。

ゴリアテにとっての眉間がなんなのか、ダビデにとって投石技術がなんなのかを常に意識する必要がある。自分ができるが、他社ができないもの、その自分ができることが他社の弱みに対して強力に作用するものだと好ましい。

ウォルマートのやったこと

ウォルマートのやったことは、まさに自分たちの「投石」をサプライ・チェーンネットワークによって作り出したと言える。ライバルのKマートは権限委譲にこだわり、各店舗が仕入れなどを行うことを手放せなかったために、ウォルマートに遅れをとってしまった。

悪い戦略とは

悪い戦略は次の3つの特徴のどれかに当てはまることがほとんどである。

  • 困難な選択を避ける
    • 部屋の中の像を見ない。主にあげられているのはサンクコスト、かつての花形部門、明らかに見通しのくらい事業の損切などである。
  • テンプレートで戦略をつくる
    • MVVとかのあれ。こういったテンプレートで作られる戦略は戦略ではなくて願望であることが多い。
  • 極度なポジティブシンキング
    • 願えば叶うっていうやつ。願うだけでは叶わない。

なぜ悪い戦略ができるのか

悪い戦略がはびこるのは、分析や論理や選択を一切行わずに、言わば地に足の着いていない状態で戦略をこしらえ上げようとするからである。その背後には、面倒な作業はやらずに済ませたい、調査や分析などしなくても戦略は立てられるという安易な願望がある。

これはまさにそう。しっかり情報を分析していけば戦略は自ずと決まってくる。悩むようであるなら分析と現状の整理が足りないと思ったほうが良い。

リソースの集中、テコ、不均衡をつく

戦略とはリリースの集中であるが、もちろんどこに集中するかが大事である。

テコのように少ない労力で大きな成果を産む場所に集中して投下することが大事である。

需要あるが供給が少ないような不均衡が見られる領域、特定の集団に大きな利益をもたらす政策、特定地域に向けたTVCMの集中投下など。

曖昧な状況を整理し、近い目標を設定する

リーダーは複雑で曖昧な状況を整理して、何とか手のつけられる状況に置き換えなければならない。だが多くのリーダーがここでつまずいてしまう。何に取り組めばよいのか曖昧なままにして、むやみに高い目標を掲げてしまうことが多い。「最後の責任は自分がとる」と言うだけでなく、近い目標を設定してチームが動けるようにすることがリーダーの大切な使命である。

とりあえずモデルをシンプル化して取り組めるようにする、いったん次の目標を決めてそこまでなんとか進んでみるなどをチームに促すことが大事である

目標は将来予測に基づいて立てるものだが、将来が不確実であるほど、遠くを見通すよりも「足場を固めて選択肢を増やす」ことが重要になる。

余裕があるときに選択肢を増やしておくことである。

戦略とは選択ではなく設計

戦略というと大きな決断から1つを選びとるようなイメージがあるが、実際にリソースのコーディネーションである。

リソースが有り余るほどあるならそもそも戦略などいらない。リソースが限定的であるからこそ戦略が必要である。

鎖構造

このようにIKEAのやり方はひどくユニークなうえに、それらが組み合わされて鎖構造を形成しているので、どれか一つをまねするだけでは効果が得られないのである。一つか二つをまねしても、コストが余計にかかるだけで、IKEAに対抗することはできない。

一連の戦略が鎖のようにつながり合い、どれか1つを真似ても対抗することができない状態をつくると非常に強い。

世の中の強い企業の多くはこの形態をとっているが、逆に鎖の輪を壊せれば優位をひっくり返せる。

競争優位と経済的利益を区別する

競争優位と経済的利益を注意深く区別すれば、それが理解できる。多くの人は両者が同一だと考えているが、けっしてそうではない。

競争優位が高まれば、あるいは競争優位を形成する要素(製品やサービス)への需要が高まれば、より多くの価値がもたらされる。

競争優位になっているものに対しての需要が高まっていないと経済的利益をもたらさない。

おもしろみのある競争優位

宇宙人が地球に置いていった「シルバー・マシン」なるものを想定する。このマシンは、毎年一〇〇〇万ドル相当の純銀を無からつくることができる。原料もエネルギーも人手も一切いらない。

このシルバーマシンは圧倒的に競争優位だがおもしろみがない。おもしろみがある競争優位とは、所有者とってさらに価値を増やす余地があるものを指す。

また、このシルバーマシンが圧倒的な経済的利益を生み出すかというとそうではない。なぜならば銀の需要は一定であり、過剰に供給してしまえば価値が下がるからである。

需要増えないと経済的利益をもたらさない。

うねり、ダイナミクス、収束状態を予測する

戦略を策定するときに結局重要になってくるのは、時代の流れや技術革新でやってくる大きなうねりに乗ることである。

この波にのるために必要なことは、その変化によってもたらされる収束状態を予測することである。要はその変化によって各社、各人が経済合理的に動いたときに最終的にどういう状態になるのかを予測せよということである。

収束状態は産業の未来の方向性を示すものであって、必ずそうなるとは言えない。だが適切に予想された収束状態であれば、磁石に吸い寄せられるように産業はその方向へと進むはずである。収束状態はあくまで総合的な効率に基づいて予想されるという点で、企業の願望を表すビジョンとははっきり一線を画する。シスコの「あらゆるネットワークにIPを」が最終的に収束状態となったのは、各社固有のプロトコルを持つ状態に比べてはるかに効率的だったからである。

組織の慣性を見ておく

自社においても他社においても組織には慣性が働く。

今までのやり方を急に変えることはできないため、以前のやり方を一定程度ダラダラと続けるざるをえなくなる。

自社の場合はなるべく慣性をなくし、他社についてはどんな慣性が働いているか注意深くみてそのウィークポイントをつく。