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「知識創造企業」の感想・レビュー

FootBall PRINCIPLESの中で紹介されていて、「サッカー選手が読む本じゃねえだろ」と気になって読みました。

初版はなんと日本がバブル崩壊で不況にあえぐ1996年(2020年に新装版が出版)。日本企業がいかに知識創造を行っているのかを調査し、それらを理論としてまとめた本です。

日本企業と欧米企業の間での経験的な知(暗黙知) / 明示的な知(形式知)を対比させ、暗黙知から形式知の変換がいかに重要か、またその変換を生じさせるためにどういった組織構造になっているべきか、どういった役割の人間が必要か、などを様々な企業のプロジェクトを例に説明しています。

96年時点で著者は、これらの知識変換プロセスを熟知している日本企業は不況を乗り越えて再び世界で成功するだろうと述べていますが、残念ながらそうはなっていないのが少し悲しくはありますが、理論としては非常に得るものがありました。

思うに90年代後半から現在までの技術の進歩はそれまでの技術の進歩と質が違いました。インターネット的なもの(スマートフォンやブロックチェーンなども含む)は、組織でじっくり暗黙知を取り出していくというよりも、数人の天才が形式知をオープンにすることで生み出されるもので、欧米(とりわけアメリカ)にとって有利なフィールドだったのでしょう。

インターネットの発達でどんどんと形式知を効率的に扱うことが有利な世界になっていますが、この本で書かれている暗黙知を上手に扱うというコンセプトは私は好きです。

いまだに日本人は暗黙知を上手に扱うのに長けていると思うので、この強みを活かして再び世界に出ていきたいものです。

読書メモ

暗黙知の形式知への変換の重要性、変換のため3要素

暗黙知を形式知に変換することがなぜ必要かというと、それがイノベーションを生むからである。イノベーションというのは、往々にして誰かのひらめきや現場のちょっとした声から生まれるものである。これらの知識は、特別だと思っていない、当たり前だと思われているといういわゆる暗黙知である。

よって、暗黙知を形式知として取り出すことがイノベーションにおいて重要である。

その際に重要な役割を果たす要素が下記である。

  • メタファーとアナロジー
    • 表現しがたいもの表現するために重要
  • 個人知から組織知へ
    • 個人が思っていることを言語してくれる誰かに知ってもらう
  • 曖昧性と冗長性
    • 組織の冗長性、同じものごとを違う視点から見ていること
    • 知識の曖昧性、知識にきまった方向性がなく、カオスであること

知識創造のために経営ができること

現場に対して方向感覚を与えることである。

ホンダのシティという当時としては新しいコンセントの車が開発されたのも、経営が「冒険しよう」というコンセプトを与え、そこから「クルマ進化論」、「マン・マキシマム、マシン・ミニマム」のような標語を現場が考え、そこからある種、一定の方向づけられた発想がなされたからである。

ミドルアップダウン・マネージメント

トップの役割は壮大な理論(grand theory)を創ることであり、ミドルは第一線社員の手を借りて自社で実際に検証できるような中範囲の理論(mid-range theory)を創ろうと努力するのである

組織に方向づけを行い、コンセプトをデザインをすることはトップにしかできない。

一方で現場の暗黙知を表出化させる役割は、第一線社員が行うのが効率が良い。なぜならば彼らほど会社のビジネスの細かい日常に浸りきっている人たちはいないからである。

彼らは極めて有用な情報の洪水に圧倒されているが、それを有効な知識に変換することが難しい。

よってミドルマネージャーの役割は、現場のひらめきとトップの理想をブリッジすることである。

彼の部下だったロアー社員の一人は、「理屈からいえば変ですが、このプロジェクトが成功したのは、理想と現実とのあいだに非常に大きなギャップがあったからだと思います。クルマの概念の革命的な再構築が必要だったのです。そしてそれを実現するために、次から次へと新しい技術やコンセプトが創り出されました」と回想している。

ナレッジ・クリエイティブ・クルー

  • ナレッジ・プラクティショナー(一線社員)

    • ナレッジ・オペレーター
      • 経験に基づく暗黙知の蓄積
    • ナレッジ・スペシャリスト
      • 構造化された形式知の蓄積
  • ナレッジ・エンジニア(ミドルマネージャー)

    • 中間レベルコンセプトの創造
    • 経営層の理想、現場の現実のブリッジ

ホームベーカリー開発チームの仲間を動員してチームのためだけでなく会社全体のための知識を創り出した田中郁子から始める。彼女は、知識変換と知識スパイラルを次のようなやり方で促進した。(1)暗黙知から暗黙知へ(共同化)──大阪コクサイホテルのチーフ・ベーカーの秘訣を学んだ。(2)暗黙知から形式知へ(表出化)──これらの秘訣を形式知に翻訳し、チーム・メンバーだけでなく松下のほかの人たちにも伝わり理解できるようにした。(3)形式知から形式知へ(連結化)──チームはその知識を仕様化し、マニュアルや作業の手引きにまとめ、製品へ具体化した。(4)形式知から暗黙知へ(内面化)──田中郁子とチームの仲間たちは、革新的な新製品の創造を体験することによって暗黙的な知識ベースを豊かにした。ホームベーカリーの開発から得られた、本物の質を提供するという新しい暗黙的な洞察は、松下の各所に伝わり、調理用家電用品、テレビ受像機、白物家電用品などのために同等の品質水準を設定するのに使われた。こうして、田中郁子は全社レベルでの知識スパイラルのきっかけを作ったのである。

(1)プロジェクトを調整・管理する第一級の能力を持っている。(2)新しいコンセプトを創るための仮説設定技能を身につけている。(3)知識創造のためのさまざまな手法を統合する能力がある。(4)チーム・メンバーのあいだの対話を促すコミュニケーション技能を体得している。(5)メタファーを用いて、ほかの人がイメージを創り出し、それを言語化するのを助けるのがうまい。(6)チーム・メンバー間の信頼感を醸成できる。(7)歴史を理解し、それに基づいて未来の行動経路を描き出す能力を持っている。

  • ナレッジ・オフィサー(経営層)
    • コンセプトの創造
    • 知識の価値を正当化するための基準設定

ナレッジ・オフィサーは、自分たちの大望と理想が会社の創る知識の質を決めることを知っていなければならない。

ナレッジ・オフィサーとしてのトップ・マネジャーは、理想的には次のような資質を持っていなければならない。すなわち、(1)会社の知識創造活動に方向感覚を与えるために知識ビジョンを創り出す能力、(2)知識ビジョンとその基盤である企業文化をプロジェクト・メンバーに伝えて理解させる能力、(3)組織の基準に基づいて創られた知識の質を正当化する能力、(4)プロジェクト・リーダーを間違わずに選ぶいわくいいがたい直観的な能力、(5)プロジェクト・チームにたとえばとてつもなく挑戦的な目標与えてカオスを創り出す思い切りのよさ、(6)チーム・メンバーと濃密に相互作用しながら彼らからコミットメントを上手に引き出す技能、(7)組織的知識創造の全体プロセスを指揮管理する能力、が必要なのである。