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書評: 「ブラジャーで天下をとった男 ワコール創業者 塚本幸一」の感想・レビュー

タイトル、帯の文、ともに素晴らしく思わず手に取らされた一冊。下着メーカーのワコール創業者 塚本幸一氏の伝記物です。ここ最近で読んだ伝記物の中で間違いなくナンバーワン。今のコンディションも相まって何度も涙させられました。経営者として夢を語る姿、そしてそれを実行していく胆力に魅せられました。

中でもグッときたのは労働組合との争いにおいて、

一、遅刻早退私用外出のすべてを社員の自由精神に委ね、これを給料とも、人事考課とも結びつけない。

二、工場作業関係者の給料制度を販売会社の社員と同じ制度とする。但し、販売会社は高卒以上採用であるので、工場の中卒採用者は高卒者の年齢に至る三年間は日給制度とするが、三年たてば自動的に月給制度に切り替える事とする。

三、工場作業者と一般事務者との女子の服装は作業の関係上、別のものを支給していたが、これを統一する。

四、労働組合の正式の文書による要求は、これを一〇〇パーセント自動的に受け入れる。

このような約束を労組に対してすると他の役員に宣言し、

「社長、そんなことしたら会社がつぶれてしまいます」

「会社を作ってから一三年経った。もし社員が法外なことを言って会社を食いものにするなら、そうした社員に育てた俺の責任だ。そんな会社ならつぶれて結構。いや、つぶしてしまおう!」

と言って腹をくくったという話。同じような場面で自分に同じ決断ができるんだろうかといろいろと考えさせられました。ここから現在のワコールに経営理念にもなっている「相互信頼」の経営というものが生まれたそうです。こんな言葉でくくったら失礼なのかもしれませんが、戦争を経験している方の胆力は凄まじいものがあります。

また、塚本氏は事業内容が下着メーカーだということもあり、当時としては珍しく女性登用を積極的にする人だったようです。本の中でも女傑という見出しで何人もの女性社員が紹介されています。企業における人材戦略で最も重要なのは人を活かすことであるという、言説を読んだことがあり、まさに下着というフィールドにおいて最も活かせるであろう女性を、時代に先立って活躍させているところは見習うべきところだと思いました。

晩年は事業を良くするには国が良くなくてはならないという思いから政界への働きかけをしていて、その志の大きさ、またそれを貫き通す強い心に終始胸が熱くされる素晴らしい一冊でした。

引用メモ

夢を語る

あれこれ考えた末、とにかく社員に夢を語ろうと決めた。 (今世紀の終わりまでに、あと五〇年ある。ここで五〇年間の計画を立て、計画の実現に人生を賭けてみよう。社員たちはそのスタートラインに立つ伝説の生き証人だと思えば元気も出るはずだ!)

むずかしい

よく、「あれは大変だ」とか「むずかしい」といった表現をする人がいるが、これほど物事から逃げている言葉はない。世の中のことは、自分が「できる」ことと「できない」ことの二通りしかないのだ。その判断をつねに無意識のうちに下せるようにしておくのが、「おのれを知る」なのだ。

危機管理

経営者の最大の仕事は危機管理だ。起こった危機に対処することだけが危機管理ではない。むしろ危機が起きる前にそれを予見し、危機の発生を未然に防ぐことこそ一流の経営者の資質である。幸一にはそれがあった。

人工宝石を売ろうとした稲盛和夫に対して

「稲ちゃん、これは絶対うまくいかんわ。こんなん売ったら、女性の恨みを買うぞ」

息子さんへのサクセッションプラン

だからこそ、会社全体が一丸となって能交を支えようとした。そして良く人の話を聞くタイプである彼は、最初に失敗したような自分の独断で物事を進めることを避け、衆知を集めることを徹底するようになった。これは忍耐力を必要とすることである。